【読書 × 色】『消滅世界』~水墨画に変わる灰色の街
昨年の映画化に引き続き、今年春にはアメリカのローカス賞翻訳部門でファイナリストに選ばれ、話題となった『消滅世界』を読みました。 著者である村田沙耶香さんの作品にはいつも驚かされますが、この作品もかなり衝撃的です。その中で描かれた、静かなグレーのシーンが印象に残りました。 作品情報 タイトル:消滅世界 著者:村田沙耶香 『消滅世界』をAmazonで見る (あらすじ) 人工授精で子どもを産むことが定着した世界で、両親が愛し合った末に生まれた雨音(あまね)は、母親に嫌悪を抱きながら成長する。婚活パーティーで出会った夫と穏やかな結婚生活を送りながら、夫以外のヒトやキャラクターと恋愛を重ねていたが…。 ■感想:グラデーションの途中で 物語の舞台は近未来らしき日本です。そこでは、結婚や妊娠、夫婦・家族のあり方が、現代とは大きく変わっています。後半で雨音が移り住む「実験都市」では、妊娠・出産を含む人口管理がコンピュータで行われ、生まれた子どもたちはセンターで育ち、住民は皆「おかあさん」となって子どもたちに愛情を注ぎます。 作品の世界観に驚きながら、私たちの社会がこのように変わっていく可能性がないとは言い切れないと感じました。 夫婦や家族の関係は、時代の移り変わりとともに少しずつ変化していくものかもしれませんが、この作品では現代の関係性がタイトル通り「消滅」していくと感じます。その世界がユートピアなのか、それともディストピアなのか、考えさせられます。 あるシーンで雨音は、変化の中にいる自分を「グラデーションの『途中』の色」と表現します。ある色から他の色へと変わっていく途中の色には、どっちつかずのあいまいさや、流れの中にある不安定さを感じることがあります。そんな感覚と重なる空気が、全編を覆う作品でした。 ■注目カラー:水墨画のような街 「灰色の街は、雨が降ると濡れて黒く染まる。… 夜なので、水たまりは墨汁のように見える。街灯に照らされた場所だけがぼうっと、明るいグレーに染まっている。まるで、水墨画の中を歩いているようだった。」 出典:村田沙耶香『消滅世界』(河出文庫) 灰色の街が雨に濡れて黒く染まるという表現が新鮮で、目に留まりました。コンクリートが雨に濡れて暗い色に変わる光景は、言われ...