【読書 × 色】「むらさきのスカートの女」~「紫」ではなく「むらさき」
紫と聞いた時、あなたはどんな色を思い浮かべるでしょうか。
紫には青紫から赤紫まで幅があり、さらにそれらの濃淡により多彩な色合いに変化します。そしてその変化により受ける印象も微妙に変わります。
今回は、タイトルの「むらさき」に惹かれて手に取った小説「むらさきのスカートの女」をご紹介します。
■作品情報
・タイトル:むらさきのスカートの女
・著 者:今村 夏子
(あらすじ)
「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性が気になって仕方のない〈わたし〉は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で彼女が働きだすよう誘導し……。(amazonより)
■感想:人には謎がある
この物語の語り手は、むらさきのスカートの女を観察しているもう一人の女、自称「黄色いカーディガンの女」です。彼女が語るむらさきのスカートの女は、一見年齢不詳で、週に一度パン屋でクリームパンを買い、公園のベンチの決まった場所でそのパンを食べる、不思議な存在です。
むらさきのスカートの女は一体どんな人物なのかと疑問を抱きながら物語を読み進めましたが、彼女の人格が次第に明らかになっていくのと同時に、今度は観察している語り手は何者なのかと疑問の対象が交代していきます。ページをめくる手が止まらなくなりました。
結末まで行き着いても、全ての謎がすっきりと解き明かされるわけではありません。しかしそれゆえに、人には少なからず謎があるものだと、ほんの少し怖さを感じながらも納得させられるような感覚がありました。
■注目カラー: 「紫」と「むらさき」が与える印象の違い
むらさきのスカートの女は、名前が明かされた後も最後まで「むらさきのスカートの女」と呼ばれています。この「むらさき」はなぜ「紫」ではなく、ひらがなで表されたのでしょうか。
漢字の「紫」と、ひらがな「むらさき」では、文字から受ける色のイメージが違うと思います。漢字の「紫」からは鮮やかではっきりした色合いを、ひらがなの「むらさき」からは柔らかで少しぼんやりした色合いを連想するのではないでしょうか。
下の図はトーン(色の鮮やかさを表す彩度と、色の明るさを表す明度の組み合わせ)が異なる紫を並べています。イメージとしては左側のビビッドトーンの紫が「紫」、右側のソフトトーンの紫が「むらさき」と重なるように感じます。
さらに、ビビッドトーンの紫からは凛とした高貴さを強く感じ、ソフトトーンの紫からはミステリアスな雰囲気や不安定感がより伝わってくるようです。
そこで、「むらさきのスカートの女」には、「紫」の高貴なイメージよりも、「むらさき」から感じるの不思議感の方がキャラクターにふさわしいことから、「むらさき」とひらがな表記が選ばれたと推測しました。
このように説明するとなんだか理論的に聞こえるかもしれませんが、ポイントは「紫」と「むらさき」から伝わる感覚的な違いです。
あなたならこれらの表記からどんな色を思い浮かべるか、そしてその色とキャラクターのイメージが合っているかを、この作品で試されてみてはいかがでしょうか。
■こんな方におすすめ
- 今村夏子さんの不思議な世界を楽しみたい方
- 登場人物と色との関係を深掘りしてみたい方
- 日常の何気ない「言葉」から色を想像するのが好きな方
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【色の話】紫の心理的作用とイメージ
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小説の中の色 #12「むらさきのスカートの女」と「黄色いカーディガンの女」

