【読書 × 色】「青い壺」~人々を静かに見つめる青

有吉佐和子『青い壺』文庫本表紙|物語を静かに見つめる青

2025年文庫本年間売上ランキングで、「国宝」に引き続き第2位となったのが「青い壺」です。この作品は1976年に発表され、後に絶版となりましたが、2011年に新装版として文庫化されました。2024年からテレビ番組などで話題となり、累計部数90万部を突破する人気の作品です。

色に関わっている私としては、「青い壺」はどんな青なのかが気になり、この本を手にしました。今回は、壺の青色がもたらすイメージについて取り上げます。


■作品情報

・タイトル:青い壺
・著  者:有吉佐和子

(あらすじ)
シングルマザーの苦悩、すれ違う夫婦、相続争いに悩む娘の言葉を聴いてドキリとする親…人間の奥深くに巣食うドロドロした心理を小気味よく、鮮やかに描き出す絶品の13話の中にはあなたの知っている人が必ずいます。(amazonより)


■感想: 半世紀前と変わらぬ人間模様

この作品は青い壺にまつわる連作短編集で、13の物語が収められています。発表されてから50年が過ぎようとしていますが、どの物語も違和感なくすんなり読め、共感できる点が多いことに驚きました。

家族、友人、知人との関係は、いつの時代も変わることなく多彩な人間模様を描き、さまざまな感情を生み出します。その様子を特にドラマチックに盛り上げるでもなく淡々と描くことが、読み手に身近な感覚を与えて、人の心の変わらなさを伝えているように感じました。

また、老年の女性たちのパワフルさも現代に通じるものがあると思いました。学生時代の友人と再会し、当時の記憶がよみがえる女性や、亡き夫との思い出をとめどなく語る女性がとても生き生きと描かれています。過去の思い出は、今を生きる力になるのかもしれません。


■注目カラー: 人々を静かに見つめる「青」

13の物語が青い壺によってつながっていますが、青い壺は主役となることはなく、それぞれの場所にただ「ある」という感じで存在しています。

この壺は青磁の壺です。青磁といえば、淡い青緑色の肌を思い浮かべる方が多いと思います。文庫本の表紙も、このソフトな青緑色でデザインされていますね。

しかし、文中では「春の空みたい」「まるで青空のような色」「私のお母さまの眼の色」と表現され、青緑というよりも淡い青が思い浮かびます。青磁は意外と色の幅があり、中には緑よりも青に近い色合いのものもあります。作者がイメージしたのはこの青寄りの青磁だったのではないかと思われます。



青磁の器|淡い青が印象的な汝窯青磁(故宮博物院所蔵)
出典:國立故宮博物院(National Palace Museum, Taipei)

青系の青磁の一例が上の画像の器です。こちらは、台湾にある故宮博物院に所蔵されている汝窯青磁無紋水仙盆で、以前に実物を見ましたが、画像よりも透明感があり、まさに春の空のような色合いでした。

青は緑よりも静かで落ち着いた色です。前に出ることなく、積極的に働きかけることもなく、広い空や海のように何気なくそこにあって、人々を包み込んでいるような色だと思います。

澄んだ青色をした壺が、物語が展開される片隅で静かに人々を見つめ、受け止めているような、そんなイメージが浮かびました。


※「青い壺」については、色の背景や文化、さらに踏み込んだ考察も書いています。合わせてお読みください。

・色のトリセツ:青磁の色合いや、「青」と「緑」の関係を色彩文化から解説
【色の話】なぜ「青い壺」の表紙は緑なのか?~緑を含む青の文化

・note:物語と色から広がる、もう一歩深い考察
「青い壺」の壺は、なぜ青なのか?


■こんな方におすすめ

・累計90万部を突破した話題のロングセラー作品の魅力を知りたい方
・時代を超えて共感できる人間模様を楽しみたい方
・青磁の「青」が物語に与える印象を知りたい方


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